ロナルド・レーガンと犬

アメリカ第40代大統領ロナルド・レーガンが犬好きであったことは、犬たち以外にはほとんど知られていなかった。彼が大統領に就任したとき、全米の犬たちが、自分たちの時代がやってくると確信し、這いつくばって人間のご機嫌を取る暮らしもこれで終わりだと思った。有史以来、決して許されることのなかった二足歩行を大統領は許可するだろう。大統領の側近のジョンの飼い犬リッチーは、飼い主の名前の方がむしろ犬のようであることで雄犬たちに知られていたが、雌犬たちの間では、下半身の肉付きのよさが評判だった。彼の排便は、発達した下半身を見せつける、ある種のショーだった。彼は道路の真ん中を堂々と歩く。便意を催したら肛門を動かし、屁と糞を器用により分け、屁は誰にも気づかれないように少しずつ排出し、大腸の中が純度100%の糞になった瞬間、肛門の筋肉を一気に弛緩させる。糞は勢いよく飛び出るが、それが着地する寸前に後ろ足で路肩へと蹴り飛ばす。彼は流し目で、かつて自分の体の一部だった茶色い弾丸に別れを告げる。哀愁漂う視線が、雌犬たちをとりこにしたのだった。彼はその気になればいつでも二足歩行に移行することができた。発達した下半身のせいで、いつも前屈みで四足歩行をすることになり、頭に血がのぼって吐き気が止まらなかった。「レーガン先生が大統領になったので、この憂鬱な四足歩行暮らしも終わりだな」と、彼は友達に触れ回った。友人たちもこれに同意し、「Xデーはいつだろう」と話し合っていたが、内心は「リッチーは大丈夫だと思うが、自分は二足歩行に耐えられる下半身を持っていない。どうしたものか」と不安だった。
Xデーはクリスマスだった。大統領は祝祭ムードのどさくさに紛れて、犬たちに二足歩行を許可した。七面鳥を頬張りながらカメラに向かって手を振る大統領。その手には「犬たちも立っていい」と書いてあった。リッチーはそれを見た瞬間、二足で立ち上がった。自分でも驚くほど身長が高いことが判明し、飼い主のジョンを上回っていた。ジョンは直感的に「これからは私がリッチーのペットになる」と理解した。リッチーはジョンに犬小屋に入って待つように命じ、家の外に出た。外では犬たちが二足で歩き回り、メリークリスマスと言いながら抱き合っているはずだった。
しかし彼の予想に反して、犬たちは昨日までと同じく、四足で這いつくばっていた。運のよい犬は人間が食べ残した七面鳥の骨の随をすすっていて、そうでないものは公園の鳩をぼんやりと眺め、自分が鳩を華麗に捕まえている所を夢見た。
リッチーは溜息混じりに、二足歩行しない理由を聞いたが、彼らは、ムカデなどの多足類の話を持ち出し、四足でもかなりいい方だと主張した。結局のところ、彼以外に二足歩行できる者がいなかったのだ。
せっかく犬たちに配慮して二足歩行を許可したのに、実際に二足歩行をしたのは一匹だけだったという事実を側近に耳打ちされた大統領は自分の赤い顔に顔に泥を塗られた気がした。リッチーは犬を代表して、一輪車に乗って大統領に謝りに行くしかなかったのだった。(おわり)