18

すると、はるか先から、ジェット機のような音が聞こえてきたかと思うと、柔らかくて熱いものがわたしの頭を直撃した。おでんのはんぺんだった。はんぺんがこんなに熱いとは驚きだった。こんなものが何度も飛んで来たら、わたしははやけどで死んでしまうと焦…

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刑務所での暮らしは、一般的には悪くないと言える。決められた時間に寝起きして、作業などをするだけで、その作業はタンスなどを作るため、中間管理職の板挟み状況などの複雑な人間関係があったりはせず、特にストレスフルなものではない。しかし問題なのは…

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しかし驚くべきことに、ブーブークッションの音が鳴ると同時に、具が多めのタマゴサンドが天井に開いていた穴から降ってきた。しかも、ブーという音を聞きつけ、若くて美しい女性三人組が部屋に入ってきて「何これ…くさーい」と鼻をつまみながら入ってタマゴ…

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ゴムのきついパンツを履いた婦人警官と木村氏による尋問が始まった。 「とりあえずここに座って。タバコ吸う?」 「いや、これがありますので。」 わたしはくさやスティックを吸った。じっくりと手でいじり回し、体温を伝え、臭いが広がるようにした。臭気に…

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われわれは、女性がパンツを脱いだ瞬間を狙い、体をくねらせ、パンツとは似ても似つかないラグビーボール状の物体へと変化した。われわれは女性の家から脱出し、坂道を転がっていった。好奇心の塊と化した子犬がわれわれを追ってきた。子犬の柔らかく暖かい…

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小さな疑問はたちまち確信へと変わった。門柱の下に隠しカメラが仕掛けられていた。もしやと思って上を見ると、電信柱にもカメラが備え付けてあった。つまり、パンツと顔が同時に見られるよう仕掛けになっているのだった。 そんな人間の住処のドアチャイムを…

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男が差し出したパンフレットには、種類別に「良薬は口に苦し」の比喩で使われるものたちが、良薬にあたらないという科学的説明が記されていた。 「くさやは…このページにある。あれも実は健康にはよくないんだ。」 パンフレットにはこう書いてあった。くさや…

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「いらない」と同時に「是非ほしい」。まるでアイドルの歌のようだと思った。「大嫌い大好き」と似ている。「一見、相反する気持ちが実は一番近いところにある」的な言い回しは、何百万人もの人が、あたかも自分が思いついたかのように「意外だけどそれが真…

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よく、ビデオデッキが普及したのは裏ビデオがあったせいだとか、インターネットが普及したのはエロサイトのおかげだという人がいるが、文字もまた、セクシャルなエンジンにより普及したと言えるだろう。セクシャル・エンジン…わたしは思わず即興で歌を歌いた…

09

彼が上着を脱ぐと、たしかに彼の脇の下にはハンドバッグがあり、たすきがけにした紐が彼の身体を締め付けていた。よく見てみると、彼の顔は少し鬱血して赤黒くなっている。わたしはだんだん腹が立ってきて、この話の通じない男に一泡吹かせてやりたいという…

08

すると不思議なことに、さっきまで青かった瞳が茶色に、熊の手のひらをイメージさせるような色に変わってしまった。 彼は青いコンタクトレンズをつけていたのだった。 「申し訳ない。ぼくは「青い目の…」という表現にあこがれをずっと持っていたんだ。うちは…

07

ここからが面白くなるところなのだが、勢い余って一章全部を引用してしまった。この本自体、三章構成なので、ここまで長々と引用するのは、もしかすると著作権を侵害することになるのではないか、という気がしたので、確認のためにわたしは作者の木村氏の家…

06

保健所の玄関には、テロリストの役などを演じることが多い個性派俳優がほほえむ献血ポスターが貼ってあり、若者たちに献血を誘っていた。私の血は顕微鏡で見ると赤血球が止まっているように見えるほどの、いわゆる「ドロドロ血」だ。私の血が一度体についた…

05

脾臓の存在感を浮き彫りにしようと試みたが、時代がまだわたしに追いついてないこともあってか、うまくはいかなかった。また、脾臓と同様、央央区の存在感も、常に消える寸前であることは否定できない。実際問題として央央区はあたかも領地をめぐるシミュレ…

04

そして、シャツを血まみれにして店を出たAは、次に、強精剤を中心に扱う薬局に入った。余命がわずか、出血で体重が軽くなっていた彼だったが、もともとの体重が重かったためか、自動ドアは体重に機敏に反応して彼を受け入れた。 「薬局に入れば応急処置をし…

03

Aが歌舞伎町を闊歩していたのと時を同じくして、Bも歌舞伎町を徘徊していた。BはAと違って、歌舞伎が、国家的な弾圧を受けて形を変えてきたという程度のことは聞きかじっていたが、それ以上の知識はなかった。彼はゲームばかりしており、歌舞伎の歴史知…

02

医者も笑えば患者も笑う。最近の患者は以前より、医者の「不謹慎だ」と言われる言動に関して寛容になってきている。その原因はテレビゲームにあると言われていて、ゲーム感覚での人殺しばかりが取り沙汰されがちだけれど、人生そのものをゲームと考えること…

世界ナントカ協会の恐ろしさ

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東京都央央区―わたしは今、とびきり粋な名前の区に住んでいる。人にそう言うと「東京二十三区の中に央央区なんて名前の区はないんじゃないか」と言い返されることが多い。しかし、二十三区を数え上げてみると、誰しも五〜六区くらい思い出せない区があるはず…

何もないのもアレなので

前書いたものをとりあえずアップしておくことにします。

ロナルド・レーガンと犬

アメリカ第40代大統領ロナルド・レーガンが犬好きであったことは、犬たち以外にはほとんど知られていなかった。彼が大統領に就任したとき、全米の犬たちが、自分たちの時代がやってくると確信し、這いつくばって人間のご機嫌を取る暮らしもこれで終わりだ…

仕切りなおしますね

先日まで書いていた東京タワーに関する小説は、あれからアップせずに書き終えました。すみません… 万が一読みたいと思われた方は、kokoroshaアットマークkitty.jpにメールしていただければ送らせていただきます。特に感想などは求めませんのでお気軽にどうぞ…