われわれは、女性がパンツを脱いだ瞬間を狙い、体をくねらせ、パンツとは似ても似つかないラグビーボール状の物体へと変化した。われわれは女性の家から脱出し、坂道を転がっていった。好奇心の塊と化した子犬がわれわれを追ってきた。子犬の柔らかく暖かい内臓を想い、途中でほどけて子犬の肛門を目指す軟弱者もいたが、私の決意は固く、ボールが崩れることはなかった。

「なるほど…つまり、下着に成り下がっていた回虫たちが自立した生物として革命を起こすということですね」
「そう。あと、私の工夫に気づいてくれたかしら。回虫は「個」という意識が少ないため、最初は主語のない文で読みにくいでしょ。しかし、徐々に主体という意識に目覚め始めるの。これ自体『アルジャーノンに花束を』のようで、その凝った作りが、これから若い女性の人気を集めると思うわ。」
そんな馬鹿な…と思っていたら、突然彼女が泣きだした。
「くだらないと思ったでしょ?前に書いた境界に関する本がまったく売れなかったから焦っているの。もうなんでもいい。とにかく売れる本を書きたいの。」
わたしは、最近のヤクザの手口の巧妙さについてのテレビ番組を思い出した。昔のヤクザは、女に誘わせて性行為をさせたあと、「俺の女に手を出すな」と現れ、金を脅し取るケースが多かったらしいが、最近はエスカレートして、単に泣かせただけで「俺の女を泣かせるとは何事だ」と言ってくるケースがあるという内容だった。さすがに十年前なら通用しない手口だが、最近は応じる人もいるという。テレビでは、タマネギ農家からラーメン屋の店員に転職した男が騙されたケースが語られていたが、これらの極端な事例の背景にあるのが、大人の幼児化だと思う。小学生は、泣いた時点で、その人が何らかのもめごとにおける加害者・被害者であることを問わず、治外法権になってしまうが、これも同じであると言える。このまま泣かれつづけた場合、ヤクザがやってくるに違いない―
わたしは風で涙を乾かし証拠隠滅をはかるため、彼女を外に誘い出すことにした。
「なるほど…では実際に風の強いところに行って女性のパンツを見れば、革命の進展ぶりが確認できるかもしれません。革命というのは、それが起こるまでは水面下で進行しているものなので、首謀者にもわかりにくい…」
「うん…じゃあ出てみる」
突然話し方が女らしくなってきて気持ちが悪くなった。しかしそのことを指摘すると泥沼になるのは目に見えている。わたしはそのことについて触れず、二人で外に出た。
ほどなくして突風が吹いた。買い物帰りの中年女がたまたま通りかかっており、見事にスカートがめくれ、パンツが見えた。また、パンツのゴムに締め付けられた跡が何重にも刻み込まれて痛そうな様子。
あまりにも痛そうだったので、思わず
「失礼ですが…腰回りは大丈夫ですか?」
と尋ねた。すると、突然、女はハンドバッグから手帳を取り出し、
「逮捕する」
と言って、わたしにひんやりとした手錠をかけたのだった。そして彼女なりの配慮からだと思うのだが、手錠をかけるやいなや、上からタオルを腕にかけた。そのタオルには、海女さんが潜水中に真珠を見つけている刺繍がしてあり、女はそれが上にくるように素早く整えた。女が暇なときに作った刺繍だろうか。彼女は真珠のところを指し、
「これがあなた。というか、あなたのしたこと、ね。そして海女さんは私。」
そのまま角にとめてあったミニパトカーに乗せられた。